山茱萸(さんしゅゆ)が、密かに旧暦・重陽の節句を祝っていました/10/3=旧9/10・丁未

昨日は、旧暦「重陽の節句」

といっても、まだ菊ゆらいの行事はちょっと先に控え、それを祝うモノもあるわけでなし…。
と思ったら、おっと! 街の街路樹に山茱萸(さんしゅゆ)の実がなっています。

まだ青い山茱萸

場所は、あしげく通う「小石川植物園」近く、播磨坂という桜並木で有名な坂。

…といっても、まだ青いか。

と、熟した実もちゃんとある。

山茱萸 熟した

山茱萸は、菊と同じく、重陽の節句の重要アイテム

いきなりですが、中国の古いお話から。

昔、中国の汝南に桓景(かんけい)という者がいた。
彼は、方術(仙人の術の一種で不老不死の術や医術、易占などらしい。)の達人・費長房のもとに学び数年。
ある日、長房は桓景に突然こう言いました。

<来る9月9日にお前の郷里に大災厄がある。急いで赤い袋を縫わせて茱萸(イタチハジカミ)を入れ臀(ひじ・臀部のことですから腰ですか…)にかけて山に登り、菊花の酒を飲めば、災いは消えるだろう>

景は、そのコトバを信じ、一家をあげて山に登り、夕方帰ってみると家畜の類はみな死んでいて、家族は災をよけることができた。
(「続斎諧記」/『日本年中行事辞典』鈴木棠三 角川書店より)

この、山にの登る際に、臀にかけた赤い袋の中にいれた茱萸(イタチハジカミ)こそが、山茱萸。

中国の古い風習では、重陽の節句には、この故事にならって、邪気を祓うために茱萸(しゅゆ)の袋を身につけ、丘などの小高い場所に登り、そこで菊花酒を飲むなどしたんだそうです。

その風習が、平安時代、わが国にも伝来し、日本風にアレンジされて、まずは宮中行事に。
そして、また少しずつカタチを変えながら武家の行事をへて庶民まで広がった様子は、現代の重陽の節句の日のブログにまとめたとおりです。

菊より気になっていた「茱萸(しゅゆ)」

重陽の節句=菊といっても、菊の花は、年中花屋に置いてあるなじみある花。
実は、新暦の9月9日からずーっと気になっていたのは、耳慣れない「茱萸(しゅゆ)」という植物のことでした。

中国の、「赤い袋に入れて腰に下げられた」という使い方も気になるものの、日本の宮廷では<御帳の左右に茱萸(しゅゆ)の袋をかけ、御前には菊瓶を置く>(『日本年中行事辞典』)という風に重陽の節句の室礼の一部になっていたようで、興味津々。

とりあえずは、どこかに実っているのを見てみたいモノと、図鑑などを子細に眺め、憧れてもいました。

そして、不意なことからご対面!

熟した山茱萸 

一枝にまとまって実ったモノが、バラバラのタイミングで熟す様子が美しく、ああ、グミみたいだねぇ~!

実際、「茱萸」と書けば、日本語読みは「グミ」。
ふーむ、なるほどね。

しかし、中国の風習に使われた「茱萸」には、諸説あり。

ミカン科の「山椒の実」か「呉茱萸 (ごしゅゆ)」
ミズキ科の「山茱萸(さんしゅゆ)」
…あたりが、有力視されているらしい。

うーん、ひとつに決めていただけないか…とも思いますが、いずれも、晩秋になれば赤い実をつけ香りもあって、いかにも邪気除けになりそうです。
案外、それぞれの木々が実る場所場所で説が違っていっただけかも?

と思うことにして、東京における「茱萸」は、「山茱萸」の実としておこう。

茱萸の枝を髪に挿し、邪気を遠ざける作法もあり

一説では、節句の作法として、茱萸の枝を髪に挿し、邪気を遠ざけることとしたらしい。

とすれば、こんな色変わりの途中のものなんかどうかしら?

山茱萸の簪

簪のようで可愛いかしらとも思います。

「山茱萸」は、「ハルコガネ(春黄金)」という別称を持つ

それは、冬の気配が残る早春の頃、その名のとおり黄色い花を咲かせるからなのだとか。

ああ、そういえば、3月の初めごろは、まだ桜並木も枝ぶりだけで、彩のないあたりを黄色く染めてた一角がありましたっけ。
よもや、それが、「山茱萸」の花だったとは…写真に撮っておくんだったなぁ。

それが秋にもなれば、こんなに可愛い実をつけて、かすかに香る。
春の素性を思い返せば、その黄金色も縁起が良し。

邪気払いアイテムとしてはかなり優秀そうな感じです。

かつて宮廷では…。

・5月5日の端午の節句に「薬玉」を簾や柱にかけて邪気を避けるまじないとしたそうです。
その中味は初夏の香草。

・9月9日の重陽の節句には、それを、芳香の強い実を乾燥して入れた「茱萸(しゅゆ)の袋」に代えた。

年中、自然からいただく「野趣ある香り」が、来る季節の邪気払いを担ったということです。

ふーむ。

とくれば、実際のところ、「山茱萸」でも「山椒」でも、「呉茱萸 (ごしゅゆ)」でも香れば、オッケーなんだろな。

それを、身近な自然なかからいただけば、植物の気で、あらゆる邪気を祓ってくれる…ということのような気がいたしますね。

で、こうゆうモノ。
花屋さんなんかでちょっと復活してくれたらステキなのになぁ…とか、思ったりもします。

◆今日は、2014年10月3日/旧暦9月10日/長月丁未の日
◆日の出5時37分 日の入17時23分/月の出13時38分 月の入–:–