上巳…あるいは桃の節句にかこつけ、雛壇飾りの意味を知る

街なか雛」行脚にて、「THE雛飾り」といって差し支えない立派なモノを見つけました。

hina2011

場所は、浅草ビューホテルロビー。
さすが、人形問屋の多い浅草橋にほどちかい立地…のなせる技なのかしら?
…って、他の老舗ホテルにも案外ちゃんとありそうですが。

もしも、本日、折よくホテルの前を通った!
…なんてことがあったなら、一応、ロビーなりを探検してみるのも一興。
お雛さまがいらっしゃるかもしれません。

そして、その時のため。
正統派雛壇飾りを深く楽しめるように、雛人形たちの役割や道具の持つ意味を簡単にまとめてみました。

雛壇飾りは、一段の内裏雛だけのものから、七人雅楽に三歌人まで加えた賑やかなものもありますが、写真のような七段飾り15人雛が正統派。

江戸の元禄期ごろに完成した様式だとされます。

檀ごとのお役目と持ち道具の説明などを

いちばん上の檀にはもちろん、天皇・皇后になぞらえたお内裏様。

衣冠束帯の男雛と十二単の女雛が仲良く並びます。
ちなみに「内裏」とは、宮城の中にある天皇の私的エリアのことです。

二段目には、三人官女。

彼女らは、宮仕えの女官です。
ちょっと見えにくいですが(写真をクリックすると少し大きくなりますのでよろしかったら)、中央の女官は、三方に載せた盃を持って座り、向かって右は長い柄のある酒器=「銚子」を持ち、左は、把手のある酒器=「提(ひさげ)」を持っています。

ちなみに、「堤」は、銚子に酒を加えるためのもので「加え」と呼ぶ場合もあるそうです。

三人官女の持ち物は、今でも目にする神前結婚式の三々九度の道具です。つまり彼女達は、そのためにここにスタンバイしているわけで、雛壇は天皇家の婚礼を表わしているともいえるのです。

三段目は五人囃子。

向かって右から「謡(うたい)」「笛」「小鼓(こつづみ)」「大鼓(おおかわ)」「太鼓」。
またもよく見えなくて恐縮ですが、これは能の囃し方と同じでしょうか。

四段目は、随身(ずいしん)。

男雛=親王雛のお付の役の最高官人です。
向かって右が左大臣、左が右大臣で、左大臣が位が上で老人の人形、右大臣は若者の人形が一般的です。

五段目は、仕丁(じちょう)。

使役、力役など宮中の雑用係で、向かって右から、箒・塵取り・熊手を持ち、それぞれ笑った顔、真面目顔、泣いた顔、とこの人形だけ表情が豊かです。
といっても、これも写真では微かにしかわからずもうしわけありません。

この仕丁(じちょう)たちの表情が面白く、もし、身近で雛壇を見る機会があったら、ぜひ確認してみていただきたいことのひとつです。

ちなみに、この人形の「仕丁」の持ち物は京風で、関東風は、立傘(柄付きの傘)・沓台(足元を覆うように作られた履物)・台笠(柄がなく直接頭にのせる傘)。
ついでに言えば、京風は内裏雛の並びが、向かって右が男雛、左が女雛という違いもあって、写真の内裏雛はそちらは関東風というのが、意味があるのかどうなのかちょっと不思議なところです。

お道具のコトも覚えておくと、雛人形はより興味深い

お道具は、最上檀の左右はぼんぼり、中央にあるのは三方にのせられた桃花酒です。
三人官女の間にあるのは、高杯にのせた紅白の餅
左右大臣の間には、御膳、菱餅がならび、これらは、すべてお雛様のお供えで、それぞれに意味を持ちます。

桃花を浸した酒「桃花酒」は長寿を願うもの。
「餅」の赤は魔よけ、白は清浄を表わすハレの日の餅。
「菱餅」は、蓬の緑は健康、やはり赤は魔よけ、白は清浄を表わします。

仕丁の左右にある植物は、向かって右は「桜」、左は「橘」
これは、京都御所の内裏内の儀式を執り行う紫宸殿に、東には桜、西には橘が植えてあったことに倣ったものです。
紫宸殿には警備の左右近衛兵がおり、それぞれ、橘と桜の木から列をなして宮廷の警護にあたったのだそうで、つまり桜と橘は宮廷の門と同じ役割を担っていたのです。

六段目は嫁入り道具。
箪笥、長持、鏡台、針箱、火鉢、茶道具などが並んでいます。

七段目は、駕籠、重箱、御所車ですが、比率から言えば、重箱が大きすぎるのが、いつも見ていてやや引っかかるところ。
宮中の宴ですから、ご馳走も、大きな重箱で運んだとかいうことでしょうか?

気になりますが、いまだよくわかりません。

ざっと駆け足で見ても、こんな風にいろいろあって面白く。
さらに、お人形のお顔のこととか衣装のこととか、調度品の詳しい話、さらには時代による人形自体の意匠の変化など、いろいろ調べてゆくとさらに楽しい深みに嵌っていきそう、可愛い顔して恐るべしお雛様…です。

江戸時代の雛祭り

江戸後期、1840年ごろに出版された、江戸風俗記録の書「守貞漫稿」には、「武家の都である江戸なのに、雛祭りは端午の節供をしのぐ勢い、雛人形や道具をそろえる雛市も上方より盛んで、武家奉公に出た町屋の女性達が奉公先を真似たからだ」と描かれています。

雛祭りは、盛大なおままごと…と言ったら、ふとどきものかしら?
でも、たぶんそうですよね。

しかも道具も人形も、美しいばかりではなく、華麗な天皇家の古式ゆかしい様式を本格的に移した精巧なミニチュアです。
奉公に上がるといえば、まだ10代の子たちで、彼女たちが、奉公先の屋敷で雛祭の行事を見て、憧れを抱いた気持ち…わかります。
時代も年齢もぜんぜん違うのだけれど、こうして丁寧にお雛様を眺めていると、そうゆうことがいきいきと解るような気がしてくるから不思議です。