さてクイズです。
その根のデンプン質は、なじみの和菓子や葛切りの材料。
乾燥させれば初期の風邪ひきの特効薬「葛根湯」にもなってしまう。
こんな便利は植物は、なんでしょう?
答は、秋の七草のひとつ「葛花」です。
…って簡単すぎたか(笑)。
さてさて、この「葛花」。
向島百花園へ「虫聴き」でお邪魔した時は、葛棚は、大きな葉っぱで覆われておりまして…。
花はまださきはじめ、こんな蕾の状態の方が多い感じでもありました。
それが、その一週間後の「お月見の会」には、もう堂々紫の花を咲かせておりました。
葛は、隅々まで活用できるバリューある植物
葛の根っこが「葛粉」や「葛根湯」になってヒトの生活を潤したり、助けたり。
もうそれだけでもありがたいというのに、葛の用途といったら、もっとたくさんあって驚くばかりです。
◆たとえば、伸びゆき、何にでも絡まる「蔦(つた)」。
その蔦が、めっぽう長く育つものだから、昔は籠や桑折などもよく作られたそうです。
あるいは、その蔓を煮て発酵させて繊維を取り出し、編んで葛布(くずふ)と呼ばれる布を作る。
今は、静岡掛川市の特産品で、稀有な布となりましたが、葛布にするのは、ふるく平安時代からの葛の活用法。
かつては、衣服から壁紙までずいぶん広い用途に使われたそうです。
◆そして、大振りの「葉っぱ」
葉っぱは、実は栄養価が高く牛馬の飼料にも最適なんだそうです。
たびたび紐解き、教えを請う柳宋民センセイの『雑草ノオト』の「葛の章」にも、それが詳しく。
<わが国では牧草としてあまり重視されなかったが、アメリカが目をつけ、大量に葛の種子を輸入し、牧草として栽培したことがある>
とありました。
おなじマメ科の植物レンゲ草を、日本の農家が空いた田畑に植えて土壌の緑肥としたように、葛も土に窒素を補給し土壌を豊かにするのだそうです。
牧草として葛を育てたアメリカでは、葛を栽培した場所を、何年か後に開墾し田畑に変えて、葛の跡地の畑は作物がよく育ったのだそうですよ。
しかし、油断してかかれば、葛は悪魔的に手ごわい植物
葛は、都会では、そう目にする植物ではありませんが、実は、その繁殖力は外来種の雑草並み。
実は、「秋の七草」とかいって、指折って暢気に数えて鑑賞したり、役立つ植物だと讃えたりしている場合でもない。
傍若無人な成長振りは、敵に回すとかなり手ごわい…というか恐ろしいものがあります。
先の『雑草ノオト』のアメリカの葛の話は後日談がそれを端的に物語っています。
曰く。
<栽培した葛が野生化して、町中にまではびこり、それを退治するのに大弱りしたそうだ。>
Oh!My God!
一方、生命力と丈夫さがかわれて、中国に行った日本の葛という事例も書かれていて、それもかなり興味深いです。
<大河の堤防を洪水の決壊から防ぐために使われているという話を耳にしたことがある>
ええっ、本当??
葛の根っこは、長芋と見まがうばかりの太さです。
一度、葛を駆除する現場を偶然通りかかり、掘り出された根っこを見たことがあります。
それがまた、あまりにも太く長く、
まるで長芋かしら?
と思ったほどです。
その芋のように太いのが、土の下では、レンコンとか竹みたいに地下茎で伸びる。
地上では、蔦が草地を這い回るように育っち、それがまた、あちこちで気ままに根を下ろす。
そいつもまた、太く根付いてゆく
…葛の現実ってのは、こんな具合。
だから、広域にわたって、根っこを縦横無尽に張りまくることができたなら、ちょっとやそっとでは決壊しない堤防作りも可能かもしれません。
いやあぁ、なんだか、なんだか、ゴキブリみたいな生命力ですね。
…あっ、いやすみません。
花を愛で、蔓や根っこをうまく活用するには非常に頼もしい植物ですが、ひとたび駆除しようとしても、これじゃあほとんど不可能に近い。
アメリカ人も手をこまねいたわけです。
『雑草ノオト』の「葛の章」の最後にちょっとひかれるエピソード。
昔、宋民センセイのもとに秋の七草の寄せ植えを作ってほしいという依頼があって検討したことがあるんだそうです。
<ほかの6種は小型種であったり、小作りにして使えるが、はたと困ったのは葛である。これだけは、どうにも小作りにして花を咲かせることができそうもない。>
とけっきょくあきらめて断ることになったんだとか。
うーん。
私も秋草の寄せ植えってあったらなぁ…と思った口ですもの残念です。
奈良時代にワープして、山上憶良さんにちょっとお願いしたいぐらい。
えっ?なんてお願いするのかって?
「葛花はちょっと元気すぎて…。もっとほかと足並み揃った花になりませんかねぇ…」
ってとこかしら?
ああ、でもでも、そんなことを言ったら、葛とほどよく共存する時代のひとです。
「葛より、あんたさんがたほうが、駆除しがたい迷惑な侵入者じゃありませんか?」
なんて、返されそうな気もいたしますね。
◆今日は、2014年9月13日/旧暦8月20日/葉月丁亥の日
◆日の出 5時22分 日の入17時52分/月の出20時41分 月の入9時39分