11月27日・28日は、青物横丁界隈が混雑する…理由
江戸時代に周辺の農民が野菜を持ち寄り売っていたから付いた名だという青物横丁。
京浜急行のその駅を東京湾側に出ると、もちろん野菜市場はもうないけれど、今日は早くから少しざわめいているはずです。
路地を少し歩けば、旧東海道に出る。
それを左に曲がると、江戸時代の宿場町、南品川宿だったあたり。
(…って、東海道七福神マップですが、こんな位置関係になっております・笑。写真をクリックすると大きくなります。)
道沿いには、竹製の笊や籠などにはじまり、古着や和服小物などの露店が並ぶ。
祭り屋台風のテントのほうを覗いてみれば、そちらの売り物も海産物とか豆とか漬物などが主で、こんな魚まで売られていたりするんです。
一方、お好み焼きや焼きそばなどのいまどきの定番モノが少ないのが珍しく、個人的には好ましい。
で、なんのお祭りなのかしら?
…と思いながら、露店をめぐる視界の端に入ってきたのは。
ややお年を召された御婦人方の、風呂敷やら手提げ袋に入れた小さなもの。
写真に撮るのは遠慮しましたものの、しっかり盗み見た(笑)それは、なんと小さな厨子でした。
毎年、11月27日・28日は、青物横丁の古刹・海運寺が祀り、江戸の頃より「品川の荒神さん」と慕われる「千躰荒神」のお祭りで、その厨子の中には荒神さまがいらっしゃる。
荒神さんは、火を司る竈のカミサマ。
台所に祀り、日々火事にならないよう火元を御守りいただくその方を、春秋に一回ずつ厨子に入れて持ち寄って、堂内の護摩法要の火で炙ってもらう。
…というのが、「千躰荒神」のメインの行事。
火で炙るって…火にかざすぐらいでしょ?
と思いつつ、拝殿に入れば、あららびっくり!
婦人たちの厨子は、護摩焚きの火に、もう少しで燃えそうなぐらいにしっかり当てられておりました。
こうして荒神さんの霊力をリフレッシュして、また今晩から半年、台所を御守りいただくんだそうです。
江戸由来の庶民の祭り=「火防せ」が主たるキーワード
「千躰荒神」は、江戸時代初期から絶えず続く行事で、江戸人たちは何よりも火事が怖かったゆえにできた作法もあるようです。
とかく江戸由来のお祭りというのは、「火防せ」をキーワードにしたもの多数。
この荒神さんに対しても慕うとともに大いに恐れ、荒神祭にお連れするにも、ご機嫌を損ね、ゆめゆめ台所から火をだすことなぢないように気遣った作法があったようです。
1.お入りいただく厨子は丁寧に風呂敷で包み、できれば首から下げて大事に胸の前に抱える。
2.護摩焚きが済んだら寄り道をせずにまっすぐに帰る。
3.帰路は、だれともしゃべってはいけない、寺のほうをふりむいてもいけない。
ふーむ。かなり厳密です。
境内には、露店の売り物などからして誘惑を誘うものが多数。
しかし、そんな作法を守る方っていらっしゃるの?
ってのが現実でして、皆様、江戸の作法などなんのその、おおらかに笑い楽しそうにおしゃべりしながらお買い物です。
いやあ、あの充実しまくった祭り露店。
それを視界にいれつつ黙ってその場を立ち去れる方が、いらっしゃるでしょうか?
って感じ。
ややよそ者である身も、もちろん。
荒神様をお持ちしていないのをいいことに、どうしてもあっちへふらふらこっちへふらふら…と、参拝よりも寄り道に費やす時間のほうが確実に多い。
…それはそれでいかがなものか。
吟味の末にいただいてきたのは、この祭りの名物「釜おこし」。
竈のカミサマ荒神さんにちなんで、ご飯を炊く羽釜の意匠。
この可愛さで、一個300円というのもこの種の縁起物にしてはリーズナブル。
かつては、「しんしょうおこす、かまおこし」との掛け声とともに売られていたんだそうで、親が子ども用にひとずつ買って帰ったんだそうです。
しんしょう=身上=家屋敷を含む財産ですから、それを起こす。
けっこう大きな御利益をもつものでもあるわけですね。
そして、もうひとつが、「荒神松」。
こちらは、松が火に燃えにくいことから、荒神様=キッチンにお供えするためのものです。
ほかにも、豆板、生姜糖、煎り銀杏、ゆで豆、唐辛子、金柑の砂糖漬け…平成の世に江戸がそのまま舞い降りてきたような露店商品のラインアップが楽しくて、ああ、やっぱり立ち去りがたい。
ちなみに、「釜おこし」は、荒神松とともに台所にお供えしてからいただくのが正しいのだそうです。
ゆめゆめ、帰る道々つまみ食いなどしないようにと、肝に銘じて、まだまだ後ろ髪引かれて帰路につきます。
千躰荒神祭は、春季、秋季の2回。
春も3月27・28日の両日に開催されて、実は未踏のわたくし、もしや露店の内容が変わっているんじゃないかしら?とふと。
ああ、お彼岸明けすぐだけど、春季も再訪しなければと、11月にして、もう来年のコト。
鬼をたっぷり笑わせております。
◆今日は、2014年11月27日/旧暦10月6日/神無月壬寅の日
◆日の出 6時28分 日の入16時29分/月の出10時21分 月の入21時20分