コレって「新酒を絞り始めました」の合図だったんだね!
酒屋さんの店先にときどき吊るされている球状の奇妙なもの。
下戸でお酒とは縁遠いもので、数年前まで酒屋の看板がわりぐらいに思っておりました。
実はコレ、「酒林(さかばやし)」あるいは「杉玉(すぎたま)」と言って、青々新しいのが造り酒屋の酒蔵の軒先に吊るされたなら、「新酒を絞り始めました」の合図。
そして、酒の神様に感謝を捧げるものなんだそうです。
といっても、造り酒屋なんて身近にない環境に暮らしていれば、写真の様な枯れ枯れの古いのを眺めるのが関の山。
ああ、新しいのをみたいなぁ。
歴史ある街の歴史がありそうな酒屋さんで見つけましたっ!
場所は、たまたま用事があって出かけた鎌倉。
鶴岡八幡宮の参道、若宮大路に面した古い酒屋さんの軒先にしっかり吊るされているのを発見!
真ん中の茶色の部分は、枯れたのかな?
と思って近づけば…。
杉の実ですね。
春先には、この前身である花が、花粉を盛大にまき散らしておりましたはずですが、こうなってみるとちょっとオツ。
近寄ると、杉の葉の香りが爽やかに漂っておりました。
…って、不審なヤツが、店先ですみませんっ!
杉玉あるいは酒林は、蔵人の手作り品だそうです。
今は、楽天などで通販もされているようですが、基本は、酒作りを担う蔵人のシゴト。
新酒を絞り始めの頃に、蔵人の手で作られるそうで、実は、この話、新幹線で偶然隣り合った杜氏さんから聞き出しました。
その方によれば、作り方はこうです。
1.針金などで球状の芯を作り、そこに、たくさん集めた青々とした杉の葉を根気良く留めてゆく。
2.最後に、はさみで丸く整形。
3.そのまま軒に吊るす。
こうして書くと簡単そうですが、けっこう技のいるシゴト。
杉の葉で丸く作るのは至難の業だし、冬からぶら下げて、そのまま年をまたぎ、次の季節までぶら下げておくものなので、丈夫さも必要。
「上手に作れるようになるには年数がいるねぇ」と。
青から徐々に色の変化を追いつつ酒の熟成を思う。
ということで、「酒の絞り始め」の時は、まだ青々として素性も明らかな杉の葉の玉。
そして、日を経るごとに少しずつ枯れ、色合いが、緑→黄色→ベージュ→茶色と変化してゆきます。
その変化こそが、「蔵の酒が少しずつ育って味わいを増しておりますよ」と告げている。
「酒林」は、毎年新しいものが作られて、新酒の季節とともに架け替えられる。
酒好きたちは、蔵の辺りを通りすがるたびに、それを眺め、いまかいまか、飲み頃はいつか…とわくわくしながら冬の日々を過ごすってわけです。
カミサマと酒職人…と酒飲みたちのコミュニケーションツール?
ふーむ。
と考えると、ことさらにステキなモノに思えてきますね。
酒蔵を守る職人たちと、酒飲みたちの言葉のない、しかし豊かなコミュニケーション。
そんな素敵なことを、この丸い茶色いものがひそかにつないでいたんですね。
さらにもともと、米の収穫から酒の熟成にいたる感謝をカミサマに捧げるものでもあって、酒林は、カミサマとヒトの媒介までも受け持つもの。
…ということですか。
杉には、強い殺菌作用があって、酒樽や枡も杉製が一般的で、もともと酒と深い関わりのある樹木。
だから、その葉もこうしてシンボルとして使い、そこに、新酒が腐らずゆっくりまろやかに育ってゆきますようにと祈りをこめる。
「酒林」は、酒作りのすべてを象徴するものでもあるのですね。
東京の町は、酒屋は多いけれども酒蔵は稀なんで…
目に付く酒林があるにはあるが、やっぱり酒屋の看板代わりに年中ぶら下げられる暗く茶色いものばかり。
意味を知れば、それはガチャガチャ描いたポスターなんかよりも雄弁で美しく、ヒトを惹きつける魅力あるものではないのだろうか。
街の酒屋さんでも毎年かけかえればいいのになぁ。
(…って、通販での値段を見たら、3万から5万円。これって宣伝費としては高いの?安い?)
しかし、そうはならないので、目を静かにつぶり、知る限りの酒屋の軒に、青々杉で作った丸いやつを一斉に吊るしてみる。
…この時期は、そんな妄想を楽しんでおります。
下戸の癖になにを言うってかんじですが…。
ちなみに、「酒林」は、日本酒由来の文化ゆえ、やはり、日本人の細かな工夫のあともあって、屋根がついたものとか、注連縄をアレンジしたものetc。
地方によってずいぶん意匠が違うんだそうです。
ああ、妄想はどんどんどんどん拡大し、日本中の酒屋という酒屋にそれら様々なカタチの酒林の玉をぶら下げてみたくなるじぁあありませんか。
ところで、あの鎌倉の酒屋さんは、今年も酒林をかけたんだろうか?
一度見に行きたくなりました。
行こうかなぁ…。
◆今日は、2014年12月10日/旧暦10月19日/神無月乙卯の日
◆日の出 6時39分 日の入16時28分/月の出20時04分 月の入 9時09分
一応、楽天などでも売ってるみたいですよ。
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