秋の七草・芒(すすき)は、中秋の名月前後で存在感を増します/旧暦8/17・甲申

秋の七草の話も、芒(すすき)で四種目。

やっぱり、中秋の名月の記憶も新しい今ごろの存在感は圧倒的です。
…というのも、お月見のお供えには、団子とともにもっとも欠かせないものですから、花屋の店先で、堂々売られていましたもの当たり前です。

しかし、田舎育ちの私。
あたりにいくらでも生えてくるすすきが、1本100円もするのを見た時は、心底驚きましたけどね(笑)。
(ちなみに、今年なんて、1本168円!!絶対に買えませんっ!)

街中でも、土手や草むらのすすきは、やっと穂が出てきました

都会で、すすきに出会いたければ、植物園か庭園か…ええ~っ!もっとさりげなく見てみたいというならば、線路端なんかがおススメです。
ほら、見つけた!

線路際のススキ

ひゅんひゅんと鋭く伸びる葉っぱの間から出てきた「穂」がどうぶつの尻尾に似ているから、別名「尾花(おばな)」
万葉集でも「芒(すすき)」ではなく、「萩の花、尾花、葛花…」と、「尾花」の名で詠まれております。

お供えのすすきは悪霊退散用、農家にとっては、有用植物でもありました。

さて、このすすき。
地味ななりして、けっこうスゴイ草なんですよ。

中秋の名月のお供えに欠かせないのは、一緒に備えた収穫物を、悪霊からしっかりと守るボディーガード役。
そして、来年もきっと豊かな実りを賜りますようにと、祈願する意味まであるそうです。

そして、かつては、農村の家々の屋根の主たる材料でもあった。
飾ってめでるにとどまらない、輝かしき有用すぎる植物なのです。

「茅葺屋根」は、この芒の藁で葺いたのだそうです。

茅葺屋根は、すすきで葺いた屋根のこと。

特別に保存されたものなどで本物を見ればわかりますが、一軒の家に使っただろう萱の量は相当なものです。

ほらこんな風に。

茅葺屋根

近くで見れば、けっこうな厚みをもって家を覆っています。

茅葺屋根の厚み

いくら現代よりも人口が少ないからといっても、そんな家が、日本の津々浦々にけっこうな数建っていたはず。

とすれば、その需要に応えたすすきは、いったいどんだけの大群生を成していたんだろうか?
…と素朴に思いますよね。

柳宗民の雑草ノオト』 (ちくま学芸文庫)を今日もさっそく紐解いてみましょう。

「ススキ」の章には、こうあります。

<当時の家の屋根は多くが茅葺で、一軒の屋根を葺くには大量の芒の藁が必要であった。そのため村落ごとに萱場が設けられていたという。>
…やっぱりねぇ。

すすき野原は、ヒトが世話をしないと消えゆく運命にあります

えっ!そうなの?
…と、ちょっとびっくりなこの事実。

実は、生物学の世界には「植物遷移」という営みがあって、

原野に苔などが生える
→草々が生えてのびると苔が消える
→木々が育って林になって草が消え
→森になり

…と様相が変わってゆくということを言いますが、すすき野原は草原としての最終段階

すすき野原にヒトの手を入れず放置すれば、やがてアカマツなどの樹木が育ち、木々が日陰をつくると、すすきはあとを託したとでもいうように消えてゆくんだそうです。

つまり、萱の素材を確保するために、村落ごとに もっていた萱場(かやば)も、過不足なく萱を採取するため、草刈りや火入れを定期的にほどこすなど、それを維持するのは重要な仕事だったみたいです。

現代は、すすき野原どころかその後の林も森も開発の波にのまれなくなって、川原などまで遠征しないとなかなか野生種にも出会えません。

しかし、すすきの名所というのはあって、箱根・仙石原や奈良・若草山などなど。
それら名所の春の野焼きがニュースになるのは知っていたけど、つまり、広大な銀色のすすき野原をむりやり維持し続けているってことなんですねぇ。

それを知ってからこっち、紅葉狩りなどで山方面へ出かけても、色ずく木々より、ススキの群生のほうが気になる始末。

ああ、このすすき野原もやがて消えてなくなる運命なのねぇ…とか。
(ときどき、これを都会で売ったら、100円×○本で…という時もある。…やれやれ)

すすきを見たいなら、向島の百花園

秋に入ると、もう回し者みたいに百花園、百花園と連呼しておりますが、東京地方で、確実にすすき見たいと思ったらやっぱりここです。

百花園のススキ

先日の「お月見の会」で出かけた時には、もうすっかり、穂が育っておりました。

小さな庭園の一角、池の周囲を芒の穂がさわさわ銀色に染め、ふと、芒の原にたたずんでいるかのような、うれしい錯覚におちいることができますよ。

そして、花は?
咲きますが、もうちょっと先です。
それもかなり地味。

もしもうまく撮影できたらこのブログでご紹介しましょう。

◆今日は、2014年9月10日/旧暦8月17日/葉月甲申の日
◆日の出5時19分 日の入17時56分/月の出18時36分 月の入6時19分